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2011年02月13日

仲間由紀恵主演「テンペスト」

2月7日、東京赤坂ACTシアターに、仲間由紀恵主演の舞台「テンペスト」を観に行きました。【写真1~3】
正式なタイトルは「琉球ロマネスク テンペスト」です。ロマネスクって、辞書で引くと本来の意味は「10世紀末から12世紀にかけて西欧に広まったキリスト教美術様式」のことでしょ。転じて「数奇であったり情熱的であったりするさま」という意味があるにせよ、こういうタイトルってどうしようもなくダサく思えて、イヤな予感がしていました。

都内のライブハウスより1時間早い19時の開演ということで、当日の仕事の予定が読めないため、前売り券を買ってませんでした。昼に当日券があることを確認して、18時30分に会議が終ると同時に地下鉄に飛び乗り、赤坂駅で降りてダッシュ。道を間違えて、TBSに入ってしまい、スケートリンク【写真4】の通路を突っ切って、開演5分前に会場に飛び込みました。
当日券だけど、2階中央前列の非常に見やすい席。コンビニのコンピュータで前売り券を買っていい席が当たったためしがなく、座席表を見ながらの当日券の方がよっぽどマシじゃないかと思いました。

HPのストーリー紹介によれば、こんな話です。
『今から約180年前、珊瑚礁に囲まれた美しい王国に龍の化身が生まれた。
その国の名は琉球、そしてその龍の名は真鶴という。
真鶴(仲間由紀恵)は、父の教えを守り、上級官僚になるための超難関な国家試験に合格した。当時の女性は試験を受けられないため、真鶴は孫寧温という名を名乗り、男の役人として首里城でその才智を発揮していく。

薩摩の侍、浅倉雅博(山本耕史)と友達となった寧温は、古い仕来たりに囚われず、次々と大胆な財政改革に着手していく。その結果、琉球の宗教世界に君臨する王族神・聞得大君(生瀬勝久)の怒りを買い、その正体を見破られてしまう。
さらに、首里城に忍び寄る数多の魔の手、そして時代の嵐がこの小さな島に襲い掛かる。そして真鶴自身も、浅倉へのほのかな恋心を抱きつつ、男として、女として激しく葛藤していく…。

まだ沖縄県が琉球王国だった時代、歴史の波に翻弄されながらも、必死に愛する祖国を守ろうとした一人の女性の、強く切なく壮大な愛の物語である。』

客から一人1万円も取るだけあって、まず驚かされるのが、もの凄い舞台セットです。舞台一杯に広がる鳳凰木、炎上する首里城、グスクのような巨大な船見台。そして、目が眩むようなCGとの融合。音響も迫力満点。

最初はセットに圧倒されていた小生も話が進むにつれて段々違和感を覚えて来ました。
誰にも(恋人の朝倉にも)バレずに、昼間は男として、琉球王国の官僚をやりながら、夜は国王の側室をやるということは、まあ物語の前提として良しとしましょう。ベルバラにせよ、リボンの騎士にせよこの前提でスリリングな作品を生み出しています。

しかし、一番いただけないのは、「首里城に忍び寄る数多の魔の手」の相手が、身内の聞得大君であったり、宗主国清国の宦官であったり、黒船のペリー【写真5=那覇泊港】であったりと、その視点が、琉球王国困窮の根本の原因である薩摩藩や幕府の支配、圧政に及んでいないことです。
挙句の果てには、薩摩の役人朝倉に「俺がこの国(=琉球)を守ってみせる。」と言わせる始末。あんた達が攻めたんでしょう!と思わず叫びたくなってしまいます。

ペリーのくだりにしても、「ペリーを琉球から日本に向かわせる交渉に成功して琉球王国を守った」というのなら、向かわせたことによって、江戸幕府が崩壊し、その結果琉球王国も消滅したという図式になるでしょう。

一体全体、脚本は誰かとフライヤーを見てみると、なんと、かの有名な羽原大介ではありませんか。フライヤーには、ご丁寧に「『パッチギ』『フラガール』で2年連続日本アカデミー賞を受賞した日本一泣かせる脚本家」と紹介されています。
拙文「与那覇歩ライブレポ『人のままどぅやゆる』」で書いたように、小生のこの10年のNo1映画は「パッチギ」でした。確かに素晴らしい脚本です。続編「パッチギ Love&Peace」は、学生が作る映画のように青臭くなってしまったけれど、脚本としては悪くはなかったです。(それより、キョンジャ役が沢尻エリカから中村ゆりに代わったのがガッカリ)
しかし、パッチギシリーズでは、ストーリーの根幹は、プロデューサーの李鳳宇が担っていたと思われます。

羽原大介の脚本で思い出すのは、2007年に大阪で観た舞台「何日君再来(イツノヒカキミカエル)」です。【写真6、7】
若かりし日のアジアの歌姫テレサ・テンを巡る物語で、黒木メイサや石川梨華がいい演技をしていましたが、テレサ役のen-RAYは、時々歌を歌うのみでただ呆然と立ち尽くす意志を持たない人形のような役回りであり、これまた拙文「台湾から与那国島は見えるか」で書いたように、テレサファンの小生には大いに不満でした。
それ以上に呆れたのは、日本、中国、台湾、韓国の歴史問題を十分把握せぬまま、強引に「元々は一緒の民族だから」というような能天気な歌で強引に物語の幕を下ろしてしまったことです。
世間で評価されているように、この脚本家はテクニカルな部分では優れているかも知れないですが、決定的に他人の痛みを理解する能力や弱者へのシンパシーに欠けているのではないかと感じた次第なのです。

今回の「テンペスト」でもそうです。終始ヤマト目線。
那覇の漁師や八重山の若い娘はウチナー口を話すけれど、王府の人たちはヤマト口。薩摩の侍は薩摩弁なのに。
最後のシーン。
真っ赤な花が咲き誇る鳳凰木(これは綺麗!)の下で、抱き合う真鶴と朝倉。琉球処分により、彼女が守ろうと命を張ってきた琉球王国はもうない。侍の姿から大日本帝国の官服姿になった朝倉が「これからは、私の祖国はあなたです。」と、2度目のプロポーズをする。
「祖国」という言葉もこの場で奇異に聞こえましたが、祖国を亡くした琉球の女性は、結局ヤマトの男に抱かれて、守ってもらえってか?!
後味の悪いラストですね。

3時間のロマネスク(波乱万丈と訳そう)にふさわしいラストシーンは、沖縄出身の仲間由紀恵演ずる真鶴が朝倉を短刀でブスッと刺して、「なぜ私たちばかりが犠牲にならなければいけないの!これからもきっとヤマトのためにこの琉球で血が流されるでしょう。ヤマトの人たちはみんな琉球から出て行って!あなたも出て行って!」と叫ぶ場面ではなかったか、小生が脚本家ならそうするのにと思ったのでした。

仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」


仲間由紀恵主演「テンペスト」



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Posted by 猫太郎 at 08:54│Comments(2)映画、演劇
この記事へのコメント
読んですっきりしました。

方言で言えば ヤサ ヤサ です。
Posted by Reiko Tamaki at 2011年11月14日 16:16
あー、返事遅れてすみません。
2週間ぶりにアクセスしました。

趣旨にご賛同いただきまして、深謝申し上げます。
テンペストに関して、くだらない論評が多くて、イヤになりますね。ヤマト人のこういう無認識が、基地問題へとつながっています。

小生の口癖で言うと、ヤレ ヤレ です。
Posted by 猫太郎猫太郎 at 2011年11月23日 15:02
 
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