ネコ灰だらけ

その日小生は悶絶しておりました。
８月２７日、那覇のライブハウス金城へ与那覇歩さんのライブを見に行った日のことです。

小生は前歯に関しては、エナメル質の堅強な虫歯知らずの歯を持っているのですが、こと奥歯に関しては、弱点のひとつになっています。
過去に「親知らず」４本全てが横を向いて生えようとしたために、一番奥の大臼歯が圧迫され歯根が痛んだり、虫歯になったりして、都度治療はして来たのですが、長年にわたり半年に一回くらいのペースで、爆発的に痛んでおります。
一回爆発すると、２週間は激しい痛みとの戦いになり、喋れず、食べられず、確実に体重が減ります。（歯痛が治れば、すぐに体重回復）

金城に行ったものの、痛くて生きた心地がしません。
ライブが始まる前に、恵美さんが小生を見つけ、いつものかわいい笑顔で声をかけてくれました。
「あらー、猫太郎さん。元気ないですね。どうかしました。」
「う～ん。」
「仕事でお疲れですか。私なんか今月３日間しか休んでないんですよ。エライでしょ。」
「う～ん。」
「あのね。髪の毛に油つけてセットしてるところ。準備でこれが一番大変なの。」
「う～ん。」
「手が油でベタベタだからトイレで洗って来るね。では、バイバイ！」
「う～ん。」


豆腐と冷やしトマトのつまみで、力なく泡盛を飲んでいるとライブ開始です。
いつもと同じ曲でも、唄は生き物。毎回表情が違って、聴き飽きることはありません。
飛びっきりの澄んだ声にドッキリの「芭蕉布」、しっとりバージョンの「十九の春」と続き、ＭＣへ。
小生の歯痛をネタにして、歩さんは「私は歯医者は大嫌い」「唄者は歯が命」と短く語りながら、得意のパターンである与那国島でのおばあちゃんとの思い出話に持ち込みました。
そこで、歩さんの口から興味深い内容が語られました。
「与那国では、歯痛の時に昆布を歯に詰めるんですよ。」
痛みのためいつもの百分の一しか頭が回ってなかったですが、小生これには反応しました。
ほほー、それは初耳！

早速iPhoneで調べてみると、さらに面白いことが分かりました。。
水戸黄門のモデルになった水戸光圀が、元禄６年（１６９３年）に藩医穂積甫庵に命じて「救民妙薬」という今で言う「家庭の医学」書を作らせました。この本には、農民や庶民のために、野山の草木、動物など簡単に手に入るものを薬として利用することが書かれています。
歯痛に効く草木として、昆布（の黒焼き）と書かれているのです。

小生がiPhoneを使って調査をしている間にもライブは進行して行きます。
「涙そうそう」は３人のハモリが圧倒的。歩さんの高音が凄いです。
「島々美しゃ」では、ガガッと引っ掻き、強弱をつけた綾乃さんのギターがカッコいい。間奏に入る瞬間に足並みを揃えてスッと下がる右二人。さり気ない動きだけれど、その視覚的効果が曲の場面転換を劇的に演出していました。
今日も出だし好調です。ここで1st set終了。


幕間に調査は本格化します。水戸黄門の「救民妙薬」の中には、昆布以外の歯痛の薬として、以下のような草木が挙げられていました。

　・杉脂
　・檜（ヒノキ）脂
　・湯の花粉末
　・コショウ
　・山椒
　・ヨモギ
　・車前草（オオバコ）
　・水仙
　・巴豆（ハヅ）
　・仙人草

他にもたくさん書いてありますが、キリがないので列挙はこれぐらいにして、現代の薬学の観点から、効き目がありそうなのかどうかを検証してみます。残念ながら、小生には薬学の知識はありませんが、有機化学の知識ならあります。少し不正確かも知れませんが、方々のネット情報も参考にしながら検証してみました。
これらの歯痛薬を分類すると、大きく３つに分けることができます。痛みを止める鎮痛剤、痛みの元になっている炎症を抑える消炎剤、そして炎症の元になっている細菌を殺す殺菌剤です。

杉脂には、クリプトメリン酸が含まれており、消炎作用があります。
檜脂には、有名なヒノキチオールが含まれており、殺菌作用があります。
湯の花は、硫黄であり、強力な殺菌作用があります。今でも殺菌剤として硫黄が処方されている水虫薬があります。
コショウには、沖縄のヒハツ同様、辛味成分であるピペリンが含まれており、殺菌作用ならびに鎮痛作用があります。
山椒には、サンショオールなどの辛味成分が含まれており、神経を麻痺させることにより鎮痛作用をもたらします。
ヨモギには、シネオールが含まれており、消炎、収斂、止血作用があります。
車前草（オオバコ）には、イリドイド配糖体のアウクビンなどが含まれ、消炎作用があります。
水仙、巴豆、仙人草は毒草であり、使用法を間違うと危険と思われますが、毒をもって毒を制す効果で、患部を麻痺させ鎮痛作用をもたらすと推測します。

現代薬学の視点から見ても、いずれもそれなりに歯痛に効きそうな感じです。


歯痛に苦しみながらも、そうこうしているとライブは2nd setの開始です。
最近のハマリ曲「ファムレ唄」。ボディを叩く効果音まで加わって、綾乃さんのギターが毎回進化を遂げています。カッコいい。コーラスも迫力。低音部は誰だ？！綾乃さんでした。恵美さんの「あ～」という白玉コーラスも相変わらず切ない。

「オジー自慢のオリオンビール」「チョンチョンキジムナー」とご機嫌なアップテンポが続いて長めのＭＣ。メンバーそれぞれの好きな食べ物は何かというトークが始まりました。
歩さん「チョコ。源氏パイ」。
小生心の中で「痛ー。チョコやパイなんか食べたら余計に悪化するがな。」
恵美さん「牛丼」。
「痛ーー。牛丼なんか食べたらツユが滲みるがな。」
綾乃さん「筑前煮」。
「痛ーーー。竹の子とかごぼうとか絶対無理。コンニャクも噛み切れない。」

このあたりから、歩さんの破壊力満点の歌唱が本領発揮。小生の調子とは反対に今日は絶好調の模様。「花」「安里屋ゆんた」「あしびなー」「ひやみかち節」と緩急怒涛の攻めで、このセット終了。


小生は、悶々として調査続行です。
昆布と言えば、産地は北海道と三陸海岸。北の果てから南の果てまで伝わった歯痛の民間療法は本当に効くのか？昆布の有効成分は一体何か？
昆布に含まれる成分として、ガンの免疫治療に有効と注目を集めるフコイダンや、頭が良くなる良くならないと両論がある神経活性物質グルタミン酸ナトリウム（うま味成分。味の素ですな。）に関する記述は、ネット上に溢れていますが、歯痛に対する有効成分の記述は見つかりません。

あとは推測するしかありません。
「救民妙薬」に昆布を黒焼きにするという記述があり、これが推測するヒントになりました。昔、昆布を黒焼きにして、採取していた薬剤がありました。ヨウ素（ヨード）です。小生の子供の頃は、擦り傷等の外傷用の消毒薬として、ヨウ素の入ったヨーチン（赤チンは水銀）という殺菌剤がありました。今でもポピドンヨードといううがい薬（殺菌剤）が売られていますね。
昆布1Kgあたりヨウ素が1～4ｇ含まれており、黒焼きにすることで、水分や炭水化物が飛び、さらにヨウ素濃度が高まり、殺菌効果が強くなると考えられます。
与那国島では、黒焼きにするという話はありませんでしたが、おそらく黒焼きにしなくても、昆布の中ヨウ素が細菌を殺し、その結果炎症を抑え、痛みを鎮めるのではないかと結論に達しました。


さて、3rd setも歩さんの歌は、ますます凄みを発揮。特に高音の伸びが素晴らしい。今日は当たり日です。一方、小生の痛みはますます悪化。顔中痛くて、もはや呼吸するのすらしんどくなってきました。

「月ぬ美しゃ～どぅなんスンカニ」「島んちゅの宝」「いつまでも沖縄」と来て、「愛燦燦」の前の長いＭＣに。
歩さんは、東北大震災の会われた人達に思いを馳せ、心の底から同情と励ましの言葉を送ります。彼女自身、挫折して一度は唄を諦めようとしたという話が、いつも以上に胸を打ちます。「どん底から這い上がった」という表現は初めて耳にしました。歩さんもあの時期想像以上に悩んでいたのです。２００４年からのファンなのに気がつきませんでした。歯が痛いくらいなんだー！！！
「毎日感謝して生きています。」と信条ともとれる言葉を合図に「愛燦燦」に突入。気合が入りまくりです。恵美さんの静かな情熱が感じられるコーラスも秀逸。

「唄が生まれる」「バイバイ沖縄」のアップ曲で締めて、本日の全１７曲が完了しました。歯痛と格闘しながらでしたが、いいステージでした。

ライブが終わって、気を紛らわす効果があった防波堤がなくなり、一挙に痛みが押し寄せてきました。国際通りに出て鎮痛剤を買うべく薬局を探しましたが、この時間では見つかりません。痛い。噴出す脂汗。

えーい！かくなる上は、今日聞いた昆布しかあるまい。
与那国の治療法にかける！

金城の向かいのファミリーマートに行き、「おしゃぶり昆布」を買いました。
他に飲み食いする気が起きないので、おしゃぶり昆布一箱だけ買い、それをギューと握り締めて、ホテルに戻りました。

箱から昆布１枚を取り出して、爪切りでカットして、痛む歯と歯の間に詰めました。







「痛痛痛痛痛痛たたたたたたたたたたーーーーーっっっ！！！！！」






あまりの痛みに悶絶して、意識が遠くなり、その瞬間スーッと痛みが消えたのでした。