ネコ灰だらけ

ご無沙汰しております。
お盆明けに、Wimax等の周辺機器を含めパソコンのシステムを大幅に入れ替えたのですが、パソコン技術にはさほど詳しくないのと、整備のためのまとまった時間がなかなか取れないのとで、立ち上げに３週間を要してしまいました。前のパソコンは家電リサイクル法があるので、さっさと下取りに出してしまいましたし。さらにこの間、仕事上の大トラブルや体調不良（歯痛）や大型台風の襲来もあり、完全にブログ活動を休止させていただいておりました。
昨日windows７機システムがなんとか立ち上がり、今日からぼちぼちブログ復帰します。

８月は２度沖縄に行きました。８月を中心に溜まったライブレポが１０本以上。うち何件かは、「ブログに書かせてもらいます。」と言って名刺を残して来たりしているので、遡って書かねばならないでしょうね。広島で開催中のオノ・ヨーコ展のレポートも外せませんね。原爆－ジョン・レノンという軸で、小生が得意とする大きな展開の話ができそうです。


さて、今日の本題に入ります。盆休中の８月１４日のことでした。
小生は東京ではジャズ系のライブハウスに行くことが多いのですが、そういえば那覇では一度も行ったことがないことに気がつき、覗いてみたい気持ちになりました。iPhoneでマップ検索して、現在地周辺の３軒をピックアップし、順番にハシゴすることにしました。
たまたま最初に訪れたのが、県庁前から川沿いに数分歩いた場所にある「Music cafe Kumoji」でした。盆休中の早い時間ということで、お客さんは少なめでしたが、オシャレな店構えは普段は繁盛していることを連想させました。

この日は、知名ますみ(Vo)、知名勝(G)、宮良和明(Ds)、真境名陽一(B)のセッションでした。不勉強で存じ上げませんでしたが、知名氏と真境名氏は、新良幸人氏率いる「アコースティック・パーシャ」のメンバー、宮良氏は「太陽風オーケストラ」のメンバー、さらには、お店のオーナーの真境名氏は、パーシャ・ワールドのＨＰの紹介によれば「現在押しも押されぬ、沖縄Ｎｏ１のベーシスト」とのことで、沖縄屈指の豪華セッションに偶然巡り合わせました。

出音は、４ビートジャズではなくて、「イパネパの娘」のようなボサノバや、「Over the rainbow」「You are sunshine」と言った王道のポップススタンダードでした。英語版「てぃんさぐの花」もありました。
高級ホテルのラウンジで演奏されている音楽のように、一瞬当たり障りなく聴こえるけれど、よくよく聴くとトンでもなく上手くて、上品な音楽です。ギターもベースもアコースティックでエフェクトミニマムなのに、驚くほど表情が豊かで繊細です。とにかくバッキングもソロも超絶技巧。ますみさんのボーカルや宮良氏のドラミングも含め、終始抑揚と理性が効いていて、しかし背後にパッションの炎が見え隠れする極上の大人の音楽でした。こういう演奏をするには相当な訓練とセンスが必要です。




幕間にオーナーの真境名氏が挨拶に来られて話をしました。一般通念でいうジャズミュージシャンらしからぬ、長身でダンディーなイデタチです。そして物腰の柔らかな語り口。
宮古島出身の個性派ベーシスト國仲勝男氏や、最近沖縄在住になったらしい（？）日本を代表するベーシスト井野信義のライブを「小生はよく見に行きまんねん。」と言うと、これはなかなかジャズ通の客が来たとばかりに「東京ではどのあたりのライブハウスによく行きますか。」と目を輝かせて真境名氏。
「有名どころの新宿ピットインも多いですが、好きなのは、アケタの店やなってるハウスなどの信念のある店ですね。」と答えると、真境名氏「おお！」と小さく喚声を上げて、
「ということは、フリージャズみたいなエグイ音楽が好きですか。」と再度の問いかけ。
「今日の演奏のように、上手くて上品な音楽もいいですが、上手くて下品な音楽の方が好きですね。商業主義が第一にあって、画一的で個性のない音楽は、断固として嫌いです。」と小生。

真境名氏から次の質問が出る前に小生の方から問いかけました。
「小生の好みがわかったところで、お薦めの沖縄ミュージシャンはいますか。」
すると、１枚のフライヤーとともに意外な答えが返って来ました。
「サンサナーは知ってますか。」
「Youtubeレベルですが、もちろん知ってます。かわいいのはグーですが、今言ったように画一的で大衆におもねる音楽なので、好きになれませんね。」
アコーステック・パーシャとサンサナーは、同じ上地正昭氏のプロデュースであり、要はパーシャ・クラブ人脈による推薦かと思いきや、話はもう一段先の展開に。
「サンサナーのセンターボーカルのユリエちゃんが、松尾の民謡酒場『樹里』で、お母さんの金城清美さんとほぼ毎日歌ってます。清美さんはめちゃ上手いし、若いけどユリエもイケる。これがお薦め。」
小生、これはいいことを聴いたとばかりに反応しました。
「よっしゃ。樹里なら、國吉美奈さんを見に行ったことがありますがな。今晩はジャズライブハウスをハシゴしようと思ってましたが、予定を変更してこれから樹里に行ってみます。」
なんせ、沖縄一のベーシストのお薦めです。音楽を聴き分ける耳に間違いはないでしょう。

ついでに、小生はＭＣネタにもなっていたことについて尋ねてみることにしました。
「明日はウンケーで、あちこちでエイサーが行われます。沖縄を代表する行事であり芸能なのですが、小生はどうも好きになれないのです。太鼓アンサンブルとしては音楽的に陳腐だし、先祖崇拝と毛遊びの延長線上にある若者の出会いの場とそれにも関係して村の繁栄を願うという本来の趣旨よりも、小生言うところの商業主義というかショーアップの要素が前面に出てしまって画一化され、創造性も長年の伝統の息吹も、つまりそこに関わって生きてきた人達の連綿と続く喜怒哀楽の総和も見えにくくなっています。もちろん刹那のエネルギーや情熱は伝わってきますがね。ということで、お薦めのエイサーはありますか。」

真境名氏、この質問にもニヤリと笑みを浮かべました。
「僕の家の前もエイサーが通るけど、見たことはないね。確かに音楽的にあまり面白くない。そういう中でも、平敷屋のエイサーは、音楽も踊りも個性があっていいよ。沖縄で一番古いエイサーかな。太鼓は割り箸みたいに細いバチで叩くパーランクーだけ。厳かな楽曲がカッコいい。白黒基調の衣装と裸足で踊る踊りも、原色にショーアップされたエイサーと一線を画している。一年に１回しか見られないから、明日やってるか役場に訊いて行った方がいいよ。」
よっしゃー。これまたいいことを聞きました。平敷屋なら津堅島に行く時に船に乗ったことがあるので場所はわかります。
「真境名さん、申し訳ない。まだ今晩の素敵なライブが続きますが、小生は早速樹里に行きますので、これにて失礼。明日はホテルの原付で平敷屋に行ってきます。ありがとうございます。また来月来ます。」


さて、すでにかなり長い文章になっていますので、金城親子のライブと平敷屋エイサーについては、結論だけ書きましょう。
真境名氏が薦めただけあって、双方とも感動的でした。
金城親子による大胆にして創造的アレンジ。曲の表面をなぞるのではなく、曲を完全に自分達のほうに引き込んでいます。清美さんのスーパーグルービーな太鼓に、スライド、ビブラート、ブレイクを多用するユリエちゃんのテクニカルでエグイ三線。当然歌も抜群に上手いです。恐るべき親子。しかも二人とも美人ときた。
静動の対比があまりに素晴らしい「花」。「芭蕉布」のハモリが天地に共鳴するがごとく。
創造的なアレンジと、高い演奏力と、フリージャズのような自由闊達さがこの二人の強烈な魅力です。




翌日は那覇から平敷屋までホテルの原付を飛ばしてエイサーを見に行きました。行きは灼熱、帰りは霧が濃く猛烈に寒かったです。
拝所（ウガンショ）の前の狭い道路で、満月の晩の崇高で重厚な儀式が行われました。白黒灰色の配色は、エイサーのルーツである念仏踊りの僧の姿を彷彿とさせます。トーンを抑えた楽曲に、厳かで一糸乱れぬ踊りは、あまたの死者の魂をあの世に送り出す儀式に相応しい雰囲気を醸し出していました。
しかし、ほころびも出掛かっていました。大手飲料メーカーのスポンサーがつき、ＲＢＣのクレーンカメラが縦横無尽に宙を舞っていました。ＴＶ撮影用のスポットライトが煌々と輝き、この舞台を演出している満月と霧が台無しです。スポンサーシップが徐々に拡大していけば、彼らの言うことを聞かざるを得なくなります。それが資本の論理というものです。このような構図で、世界中でどれほどの文化や伝統が崩壊して行ったことか。
チョンダラーの衣装がカラフルで現代的な要素が加味されているのが急に気になり始めました。

前の晩、ユリエちゃんが言ってました。
「サンサナーも楽しいけど、少しキャラを作っちゃう。お母さんとノビノビやれるこちらのほうが自分らしさが出てると思う。」
そういうものですよ。自分たちのアイデンティティの発露より前に、資本の論理が出てくると、最大公約数の表現が求められ、表現の大胆さが後退し、個性が消えてしまいます。２０歳の女の子のコメントに、伝統のエイサーの行き先を危惧したのでした。

とにかく、真境名氏のおかけで音楽的に大変充実した２日間でした。
また今月（来週の連休）もお店にお邪魔して、音楽談義をすることにしましょう。
そして、金城親子のライブも。