てぃーだブログ › ネコ灰だらけ › 沖縄音楽アーティスト › シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」

2011年03月29日

シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」

凄いライブだった!ムチャクチャ凄かった! 何が凄いのか。
高度で粋な音楽にして、単に音楽ではない。これは、思想そのものであると。


3月25日、吉祥寺のマンダラ2。本ライブは、元々「アルバム『ビリケンさん』発売(半年遅れ)記念ライブ」だったのですが、ちょうど2週間前に震災と原発事故が発生。シーサーズはそれを受け、急遽「被災地支援&節電ライブ」に変更し、恐るべきシナリオを仕込んだのでした。

被災地支援を銘打ったライブは毎日全国で行われていると思います。
義援金を集めることは今重要です。水や食料や日用品がなくて困っている被災地の方々に、支援物資を送らなければなりません。だから、巷で行われている支援(義援)ライブの役目を否定しません。
しかし、その気持ちは尊いけれど、「この歌声が被災地に届きますように!」「みんなが元気になりますように!」と叫んでも、今はまだ空しいです。なぜなら、彼らに歌声は届かないし、まして、被災者の皆さんは今音楽を聴ける状況にないからです。
では、社会に対してのメッセージや表現の発信者であるミュージシャンは、かかる危機に際して、募金活動以外にどう行動すべきなのか、それを予想不可のとんでもないレベルで示したのが、今回のシーサーズです。

彼らは我々に地球規模の「思想」を突きつけました。産業革命以来、人間性を置き去りにして肥大してきた「経済」「政治」「社会」システムへの強烈なカウンターパンチと言ってもいいでしょう。
小生は猛烈に感動しました。と同時に、あたかも感電の衝撃を受けるがごとく、巨大な恐怖が体を駆け抜け、それは今もある種の戦慄として脳裏に焼きついています。

いつもより落とされた照明の下で、3時間近くに渡って展開されたライブのメンバーを先に紹介しておきます。
1st setは、オニダさんこと持田明美さんと平沢千秋さんのシーサーズのお二人に、ゲストとして、ジャンベのカサハラ・マ氏、Mio Fouのバイオリン美尾洋乃さん、北海道からマンドリンの今井大蛇丸氏が合流。
2nd setは、「ジンタらムータ」。クラリネットの大熊ワタル氏(小生が最も好きなミュージシャンの一人です)、チンドン太鼓のみわぞうさん、元ソウルフラワーユニオンのギター河村博司氏、チューバ関島岳郎氏(コンポステラは凄かった)に、上の三尾さんと今井氏がジョイン。
そして、3rd setは、シーサーズとジンタらムータとゲスト全員によるキング・シーサーズ(小生命名=ゴジラシリーズから)。

何はともあれ、順番を入れ替えて、3rd setから説明するのがいいでしょう。何故なら、ここに恐るべき大仕掛けがあったからです。
昨年10月の拙文「シーサーズライブレポ@ピースカーニバル2010」で紹介した、伊江島の野里竹松さん作による「陳情口説」。米軍の射爆場建設のために土地を奪われた伊江島の農民達が、逮捕者を出しながらも、その不当性を訴えて全県を「乞食行軍」した時に歌われた曲です。
シーサーズは、これを「原発陳情口説」と言う替え歌にしました。
行軍を思わせるズンズンという力強いリズムが、胸に響いてきます。ウチナーグチのメロと、大熊氏のラップは、放射能汚染の恐ろしさと、政府や東電への不信・批判が、これでもかと語られ、陳情口説の農民達の恨みと執念が乗り移ったようでもありました。

そして、聴衆の関心を原発問題に十分引きつけておいて、スペシャルセット「大漁歌い込み」の披露です。別名「斎太郎節」とも呼ばれる宮城を、東北を代表する民謡です。
1拍目と4拍目にアクセントを置いたリズムに「エンヤートット、エンヤートット」の掛け声が、楽曲に躍動を与えています。日本列島の西端、与那国島に端を発した黒潮は日本列島の南岸を進み、銚子沖で北上し、三陸沖で親潮とぶつかります。二つの海流がもたらす世界屈指の漁場、三陸沖。ここは世界三大漁場の一つ、豊穣の海なのです。

日本の食糧自給率はカロリーベースで40%です。しかし、贅沢を言わなければ、コメと野菜と魚で、食料自給率を100%にできると言う試算があります。タンパク源として、牛や豚ではダメです。なぜなら今日の畜産業が、アメリカの穀物メジャーが供給する配合飼料(トウモロコシ)をベースに成り立っており、国内で牛を育てると回りまわって食料自給率が下がる仕組みになっているからです。海に囲まれた日本における主たるタンパク源は、昔から魚であり、これからも魚であるべきなのです。

シーザーズの歌を聴き、目の前に広がる光景は、東北の漁港。何百隻の漁船のノボリがはためき、海鳥が飛び交う。漁師が大声で叫べば、それに応えるように海鳥も鳴く。日本の食を支える東北の漁港。ここにあるのは、人の営みの活気と絶え間ない生命の息吹です。絶え間ない生命の息吹と言うと、連想されるのは、この海で展開される食物連鎖の世界です。

我々が食べる一匹のクロマグロが成長するのに、食べられるイワシなど小魚は数千匹。イワシ数千匹が育つのに、食べられるオキアミなどは、数千万匹。オキアミは、動物性プランクトンを食べ、動物性プランクトンは植物性プランクトンを食べ、結局マグロ一匹が育つのに、何十兆、何百兆という植物性プランクトンが食べられています。
プランクトンは小さいけれど、一匹一匹は、我々と同じ生命体に他なりません。遺伝子の何%かは人間と共通しています。何兆もの生命の上に、裏返して、何兆もの生命体の死の上に成り立つ我々人間の生命。

1、4の跳ねるようなリズムは、続きます。
突然、閃光と共にシーサーズの仕掛けた時限爆弾が炸裂しました。
強烈なグルーブによって、十数秒間すっかり忘却させられていましたが、なんということでしょう、この活気に溢れた港の光景は今はもう存在しないのです!
津波により、船は転覆し、漁港は瓦礫の山と化しました。
それだけではありません。世界で有数の豊穣な海には、猛毒プルトニウムを含む大量の放射性物質(=放射能)がまき散らかされてしまったのです。

生命の誕生以来40億年間、連綿と繰り返されてきた生命の営みが、人間のエゴによって起こされた放射能汚染によって、3月11日のこの瞬間から、少なくともこの地において、破壊され始めました。多くの生命が死滅して行くでしょう。運良く生き残った生命体にも、食物連鎖の法則により、じわじわと放射能が濃縮されていくという運命が待ち受けています。食物連鎖のピラミッドの頂点で、放射能が最も濃縮された魚を食べるのは人間です。

小生はそのことを思い、恐怖に慄きました。
ああ、シーサーズめ! なぜこんな残酷な選曲をするのだ!!
聴衆に、消えた漁村のみならず、消えていく無数の生命の営みと人間の暗黒の未来を逆説的に連想させるとは。
他の義援ライブのように、希望の唄だけ歌ったらいいではないか。募金を呼びかけ、「みんなで元気になろう。ガンバレ東北!頑張れ日本!」って言ってくれるだけでいいのではないか。それだって今は十分なはずです。


なにか希望の光はないのか。
小生、1st setの彼女達の唄々を思い出しました。
「私達は沖縄のいろんな島の唄を歌います。」と最初に挨拶したオニダさん。沖縄の島々のあまり知られていない素晴らしい唄と演奏を披露していきました。
三線がパワフルで太いうねりの金武町や宮古島の豊年節、強烈なエスニックグルーブの沖永良部メドレー、マンドリンとチューバとバイオリンの厚みがプレグレ風の「耳切り坊主」や「サンダーバーラー(?)」。
小生近くで見ていましたが、千秋さんの弦の振幅が大きいこと。1㎝くらい揺れて強烈なバイブレーションを放っています。そして、亡くなられた宇野世志惠さんにも共通するシーサーズ特有の発声。やや高めの素直な声で若々しく歌います。

そこで歌われている唄は、身を焦がすようなラブソングであったり、村人が燃えに燃えるエキサイティングな綱引きの喧嘩唄であったり、ユーモアたっぷりのオカルト風子守唄であったり、そして、過酷な気候、地形のため五穀豊穣どころか飢饉の年が多いゆえに祈りと感謝の念を込めて歌われる豊年節であったりと、実に表情豊かな世界なのです。本当の苦労や悲哀を知っているからこそ、人生の楽しさや喜びも光輝く、活き活きとした世界。素晴らしいです。

そこで、ふと、思ったのです。
これらの唄が作られたのは、化石燃料資源やウランの消費が0の社会ではないかと。つまり、人生の喜びや生き甲斐は必ずしもエネルギー消費に比例しない。炭素も資源も完全に自然の中で循環しているサステイナブルな世界においても、人はそれなりに幸せに生きて行けるのではないかと。

現代において、化石燃料資源の消費を0にするのは、到底不可能にしても、半分くらいすることは可能なのではないでしょうか。せめて、電気の使用量を3割減らしましょう。3割と言う数字は、日本における総発電量に占める原発の割合です。3割電気を減らせば、今すぐにでも全ての原発が停めらる計算です。
汚職分を含めた巨額の税金と自動的にむしり取られる電気代を投入し、地元の悲痛な反対を押し切って無理やり建設して、その結果、社会を壊し、民主主義を壊し、人を壊し、挙句の果ては、ずさんな設計を棚上げして、放射能を撒き散らす原発の被害に会うよりは、ちょっと街が暗くたって、ちょっと電車が混んでたって、24時間コンビニが営業してなくたって、経済活動が停滞して3割給料が下がったっていいじゃないですか。
それはそれで、おそらく今と何ら変わらない質の喜怒哀楽の人生が用意されているはずです。
彼女達が歌う島々の世界はそのことを雄弁に物語っています。

シーサーズは、3rd setの「恐怖の構図」の1時間前に、解決のための「哲学」を提示していたのではないかと気付き、改めて驚愕した小生なのでした。


2nd setのジンタらムータのハイライトは、チリの歌手ビクトル・ハラの作品「平和に生きる権利」の演奏でした。
1971年に作られたこの曲は、ベトナム戦争を始めとして、世界中の反戦の場で、反基地の場で、反核の場で、反人権弾圧の場で歌われてきました。ボーカルをとった河村氏は半分叫びながら歌いました。
「広島から、沖縄から、平和を取り戻すまで歌い続けるだろう。」
この歌詞こそ、社会にメッセージを発しなければならないミュージシャンに求められる永遠の姿勢であり使命だと思います。そして、原発事故で被爆した人、平和な生活を捨て望まぬ避難を余儀なくされた人、汚された大地と空気と海と全ての生命に思いを馳せ、今後はこの歌詞に「福島」を加えて欲しいと思います。


最後になりましたが、本拙文があまりに原発事故寄りのスタンスになり、地震、津波に被災された方に、ほとんど触れられなかったことにお詫び申し上げます。
今一度、今回の災害で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げると共に、被災された全ての方に、心よりお見舞いを申し上げます。

シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」


シーサーズライブレポ「平和に生きる権利」



同じカテゴリー(沖縄音楽アーティスト)の記事
尖閣でトニーそばを
尖閣でトニーそばを(2013-02-27 22:30)


この記事へのコメント
猫太郎さん
いつもながら深い読みと文責で、非常に興味深く拝読いたしました。
お察しのとおり、シーサーズの目指しているのはサスティナブルな世界と(うたの)自給自足です。
大漁歌いこみが歌われていた豊かな海と人々の暮らしが1日も早く戻ることを望みます。しかし、それもいつになるのかまったく予測が立たないこの状況。
いったい誰がこの責任をとるのでしょうか。
Posted by オニダ at 2011年03月29日 23:23
「魚がとれますように」
「作物がとれますように」
その時代は生きるのに精一杯だったのでしょうが、
シマ唄に過剰な自我はなく、プリミティブで力強い。
そんな唄を唄っていきたいです。
Posted by 千秋 at 2011年03月31日 00:53
>オニダさん、千秋さん

シーサーズのお二人そろって、このような場末のブログにコメントいただきありがとうございます。

それにしても、グッドコンセプトに、素晴らしい唄と演奏でした。感激して涙が出ました。(T-T)

持続可能な社会(サステイナビリティ)とは、つまるところ自然との共生ということであり、すなわち、同じ地球上に住む生命たちに不当な負荷をかけないということです。
核分裂反応などは人間の手に負えるものではないという議論に先だって、本当に今のレベルのエネルギーが必要か、これだけのモノが必要か、一人一人が目を醒まして考えないといけないですね。

「人間の欲望がうんぬん」という人間の普遍性の部分で議論してたって本質には到達できません。
具体的にこのような社会を構築してるのが、ある種の巧妙で大がかりな収奪システムであることに気がつくべきです。

魚もプランクトンも植物も黙して文句を言わないけれど、もうとうに彼らと共生できるラインを越えていると思います。

小生はと言えば、夜に一杯の酒と一冊の本さえあれば、あとは最小限の衣食住でも不満なしですよ。(^・^)
Posted by 猫太郎 at 2011年03月31日 13:34
こんばんわ!(>▽<)
ライブレポ有り難うございますぅ!

なにやら世の中いろいろひっくり返って大騒ぎの日々ですが
シーサーズが唄う沖縄民謡のように
私達はもう一度自然に対し畏敬の念を抱くことを思い出すべきなんでしょうね。
被災地の大地と海に真の豊穣と大漁がもたらされるよう今は祈るのみです。
Posted by ねこねこ at 2011年04月02日 23:58
>ねこねこさん

コメありがとうございます。
マンダラ2でご一緒だったようですが、ご挨拶できず失礼しました(__)
小生はねこねこさんと違って、ついここ半年のシーサーズファンなのですが、秋のピースカーニバルといい、今回といい、オニダさんのコンセプト設定に感心しております。
またライブハウスでお会いしましたら、よろしくお願いします。
同じ猫つながりですし。(*^-^*)
Posted by 猫太郎 at 2011年04月03日 10:56
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。