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2011年01月09日

八木美知依ライブレポ「神託の琴」

新年らしく、琴の話を書きます。

琴と言っても、チューニングのために立てられた「柱(じ)」【写真1】があるものを「箏」、ないものを「琴」と区別するのが正しいようですが、この記事では、ご本人がこだわりを見せる八木さんに関する部分を除いて、両方とも「琴」と表記します。ご専門の方には不快な思いをさせるかも知れませんが、ご了解いただけると幸甚です。

琴について書きたくなったのは、年末の12月26日に箏奏者八木美知依さんのライブを観に行ったからです。【写真2、3】場所は、小生が最もよく行くライブハウス、東京西荻窪の「アケタの店」。

八木さんのライブは、十数年前にフュージョンバンドと一緒にやっているのを観て以来でしたが、この間に彼女はすっかりジャズやアバンギャルド界の大御所になられました。
例えば、今新宿東口のディスクユニオン・ジャズ館に行くと、入ってすぐ右手の特選コーナーに、エリオット・シャープとの競演作などが、山積みになっています。

ご存知ない方のために、「はてなワード」から彼女の略歴を抜粋します。
『ウェスリアン大学客員教授として渡米、ジョン・ケージ、ジョン・ゾーン等、独創的な活動をする音楽家に影響を受ける。マーク・ドレッサー、ペーター・ブロッツマン、エリオット・シャープ、フレッド・フリス、大友良英、クリス・カトラー、ハン・ベニンク、ビル・ラズウェル、サチコ M.、灰野敬二、鬼怒無月、勝井祐二(ROVO)、梅津和時、巻上公一、橋本一子、カン・テファン、ビリー・バング、ブッゲ・ヴェッセルトフト、インゲブリグト・ホーケル・フラーテン、ポール・ニルセン・ラヴら世界のトップ・インプロヴァイザーと共演するかたわら、浜崎あゆみやTakuya(元Judy AND Mary)といったJ-POPアーティストのレコーディングやステージにも参加。その驚くべきテクニックと無類のリズム感で聴く者を圧倒している。』

今回の共演者は、ジャズ界のサラブレッドにして、ボンゾのように重く激しい太鼓を叩くバカテクドラマー本田珠也氏【写真4】と、小生のブログでもお馴染みのプログレバイオリニスト壺井彰久氏【写真5】。
メンバーからして、期待が持てます。

と言いながら、ライブレポの前に、琴に関する別の話題を2つお送りします。

ライブに前後して、仕事で広島県福山市に行く機会を得ました。奇遇にも、福山市は日本の琴の7~8割を生産する一大産地として知られています。
折角ここまで来たのだからと、携帯のネット検索を行い、見学可能な琴製造所を調べ、電話をかけてみました。
「年末でもうすぐ閉めるから、来るならすぐ来て。」とのこと。
小生、駅前の吉野家で昼間から日本酒2本を飲んで真っ赤な顔をしていましたが、30分に1本のローカル線に飛び乗って、寂しい地方駅でタクシーを拾って、目的の「藤井琴製作所」に着くことができました。

JR貨物コンテナの並ぶ工場には、据え置き電動ノコや電動カンナなどの大型木工機が所狭しと置かれ、製造途中の琴が何本も壁に立てかけられていました。【写真6】床には、おが屑やカンナ屑が散乱しています。
電動工具は使うけれど、一面一面(琴を数える単位は「面」)手作りです。胴の形ができると、桐の木目がきれいに出るようにと、石炭であぶった焼きゴテを使って、表面を焦がして行きます。【写真7】琴の大きさと焼きゴテの大きさを比較すると、大変な作業であることが容易に類推されます。

この道50年の藤井社長と話をしました。【写真8】
お仕事中恐縮なので「手を休めないで下さい。」と何度も申し上げたのですが、手を休めるどころか、最後は小生が立っていた建屋の外まで出てこられてしまいました。酔っ払いの見学者相手に、ホント恐縮です。
藤井社長は、岡山弁寄りの広島弁で熱心に語ってくれました。
「琴を作るのは楽しいんじゃが、売るのが大変じゃて。最近は全然売れんがな。買う人が少のうなった。売れんから、値段は下がって悪循環じゃて。琴を作るもんは、だいぶ減ってしもたが、このままでは、誰も作らんようになるけん。」
藤井社長の額の深いシワにご苦労の跡が読み取れました。

「そうか、日本の伝統楽器たる琴が、もう10年か20年したらなくなってしまうかも知れない。」タクシーを呼びそびれた小生は、雪の舞う中、JRの駅まで40分間の道のりを 暗澹たる思いで歩いたのでした。酔いはすっかり醒めました。

では、伝統楽器である琴が一体どれほどの歴史を持つのか調べてみました。
福山での琴製造の歴史は300年、目一杯さかのぼって、福山城が建てられて以来の400年です。数百年程度でビックリしてはいけません。
ヤマト琴(中国から伝わった箏と区別して)のルーツは、なんと数千年前の縄文時代にまで遡るのです。

縄文時代(後期)の琴の出土例として、北海道小樽市忍路土場遺跡、滋賀県彦根市松原内湖遺跡、青森県八戸市是川遺跡などが知られています。
弥生時代後期から古墳時代ともなると、琴を弾く姿の埴輪が全国から出土しています。一例として、群馬県埋蔵文化財のHPから、画像と文章を引用させていただきます。

八木美知依ライブレポ「神託の琴」

 ■時 代 : 6世紀
 ■出土地 : 前橋市朝倉
 ■寸 法 : 高さ72.6㎝
 ■保管等 : 相川考古館

『長方形の椅子に腰かけて、膝の上の琴をひく姿である。顔は丸みのある鼻と細く長い口が特徴的である。欠け落ちているが、つば付きの帽子のようなものをかぶり、下げ美豆良(みずら)で後ろは背中にまで髪を垂らしている。上衣の表現はその裾のみであるが、赤い逆三角形文様の帯を締め、中央に大玉のつく丸玉の首飾り、手には篭手、腰には頭椎(かぶつち)状の大刀をつけており、ハレ(祭祀)の場であることが読みとれる。
琴は一部破損しているが四絃で琴頭に向かって徐々に幅を広げ、右手の下の位置には絃孔があいている。こうした琴をひく埴輪は男子に限られており、『日本書紀』などでは神事の際に高貴な人が琴を弾いている。その際にはメロディよりも、かき鳴らす音色が重要であった。琴を弾く埴輪の中には撥(ばち)を持つものがある。』

琴が神事のための呪術用の楽器(霊器)として用いられていたことがうかがい知れます。『古事記』『日本書紀』にも、琴は何度も登場しますが、ほとんどが神事の場面です。ポロロンと弾くと、その不思議な響ゆえ、あたりに霊気が漂う雰囲気になるといったところでしょうか。現代人でも、神社の雅楽やお寺の鳴り物を伴ったお経を聞くと、何やら怪しげな気持ちになります。

霊器である琴を弾くことによって、神と交感して、ご神託(神のお告げ)をたまわるという場面もよく『記紀』に登場します。『古事記』から、一番強烈な場面を紹介しましょう。

時は西暦199年(ホンマかいな)、ヤマトタケルの次男である仲哀天皇は、熊襲(ヤマト朝廷に服従しない南九州の国)を討つため、后の神功皇后(スーパー巫女として伝説の人物)と共に、筑紫の香椎宮に滞在していました。
仲哀天皇は熊襲討伐を占うため、神を呼び出すべく琴を弾きました。神が降りてきて、神功皇后に取り憑き、神功皇后の口を借り、神託が述べられました。
「熊襲のような小国を攻めるより、海の向こうの新羅を攻めよ。新羅には金銀財宝が山とある。新羅は戦わずして降伏し、続いて熊襲も降伏するであろう。」

仲哀天皇はこのご神託を全く信じず、不機嫌になって、神との交感を中断しようと、琴を弾くのを止めてしましました。
側近の武内宿祢(300年に渡り5代の天皇に使えたという伝説の大臣)が慌てて言いました。「琴を弾くのを止めてはいけません。」
天皇は渋々琴を引き続けましたが、しばらくすると、琴の音が聞こえなくなり、我に返った神功皇后が近寄ると、すでに仲哀天皇は息絶えていました。
仲哀天皇は、神の怒りに触れ神に殺されてしまったわけですが、小生が
ここで言いたいのは、日本においては、このように琴の演奏により神が舞い降りて来るということです。


ようやく、八木美知依さんのライブレポに戻れます。
一言で言うと、天地創造の噴火・地震・雷鳴のようなもの凄い音楽でした。
本田珠也はジャズドラムを叩かせたら、この上なく繊細でクールなのに、こういう音楽では下品なほどにパワフルです。筋肉質の体躯から力任せにバカスカ、ドカスカ来ます。リズムは、フリーを基調にしながら、ロック、パンク、インドストリアル、7拍子、ボンゾ風、フィルコリンズ風と多彩です。スゲー!

壺井は綺麗な音楽においてもなかなかのオタクプレーヤーですが、フリーノイズミュージックでは、ますますの偏執狂ぶりを発揮します。エフェクターを30個以上つないで、脳波を乱すような音色を作って、痙攣しながらプレーします。時々ループを作っているので、一人で大波小波の干渉模様を奏でます。スゲーの2乗!!

そして、美知依さん。17弦箏と21弦箏を弾き、こすり、引っかき、手で叩き、バチで叩き、バチを挟み、殴り、蹴飛ばし、ひっくり返し(これは嘘)と、もうクチャクチャです。なんという音でしょうが。霊器にふさわしい琴の音色。これまで聴いたことのない音。有機化合物のような音の絡み合い! スゲーの3乗!!!

小生の脳内にどんどんアドレナリンやドーパミンが分泌されてきます。
霊器が奏でる音楽に包まれて、まさにトランス状態に突入。
目の前が白くなって、美知依さんが、光り輝く巫女さんに見えて来ました。
ああ。ついに神が降りて来ました。

荘厳な声で、神の声が聞こえました。

「汝の望みを叶えてやろうか。」と神。
「いやいや。一日一日慎ましやかに過ごせれば、特に望みはございません。」と小生。
「ほほう。欲がないな。若くてかわいい愛人は要らぬか?」
「昔何回かヒドイ目に会いましたし、それに、今はすっかりチンチンが役に立ちません。」
「一つくらい望みはあるだろう。言ってみろ。」


「はい、それでは。世界の平和と全ての人々の平等を望みます。」

八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


八木美知依ライブレポ「神託の琴」


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Posted by 猫太郎 at 01:33│Comments(0)音楽全般
 
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