ネコ灰だらけ

９月１３日、與儀朋恵さんの初東京ツアー２日目を見に行きました。場所は、西新橋にあるおしゃれな居酒屋、「沖縄きっちん・城」です。

小生は、時々足を運ぶ「金城」のスケジュール表の中（かなかな～♪）でしか朋恵さんの名前を見たことがなく、彼女のことをほとんど知りませんでした。
携帯で検索すると、国際通りのライブハウスだけでも「金城」「きらら」「ライラ」「はてるま」あたりに毎月出演し、他にも「Mod's」やあちこちのホテルや公民館、さらには国立劇場にも出演しているようで、なかなかの売れっ子です。来月の「琉フェス＠東京」にも太鼓サポートで出演するとのこと。
もともとはお母さんが太鼓の師匠で、楽器は太鼓からスタート、その後三線、胡弓などもマスターし、沖縄県立芸大卒業後、歌ったり叩いたりとプロのミュージシャンとして活躍しておらるようです。小生の推測では、御（おん）歳３１～２才で、プロのキャリアは１０年位と見ました。間違ってたらごめんなさい。

1st setは、八重山、宮古、沖縄の民謡で押し通します。
第一印象としては、三線の音が素晴らしい！ 楽器、ＰＡのせいだけではありません。三線の左手の押さえ、右手のピッキングが確実で、音の粒が揃っており、リズムが正確なのです。芸大出だけあって、頭の中に楽譜が巡っており、それに忠実に弾いているに違いないと思っていたのですが、聴き進むにしたがって、単にそれだけでないと思い始めました。
ミディアム、スローな曲で、特に強烈なグルーブを感じるのです。歌を含め、表面的には、シンプルかつジャストなリズム感ですが、いやいや、よく聴くとそうではありません。竿を押さえる動作以上の動きで左手がリズムをとっており、肩や足がポリリズムで躍動しています。どうやら、小さい時から母上に仕込まれた太鼓叩きとしてのリズム感が彼女の演奏、歌を支配しているようです。それが、譜面には出ないゴーストノートや、ごくわずかのタメやクイとして三線の演奏に現れ、抑揚や節回しとして歌に現れているのです。端的に言えば、太鼓を叩くリズム感で三線を弾き、唄を歌っているわけですね。小生もドラマーゆえ、その感覚を嗅ぎ取りました。あたかもサブリミナルなこのグルーブ感、とてもカッコいいです。

歌の方は、やや鼻にかかった個性的な声と、圧倒的な瞬発力・爆発力はないものの高音域まで安定した無理のない発声が特徴です。ミディアム、スローナンバーの演奏で感じるものが大きいので、歌においても「しみじみ系」で本領発揮に聴こえました。虚飾のない切なさがグーなのです。

2nd setのハイライトは、古典の「子守節」→教訓歌「てぃんさぐの花」→オリジナル「てぃんさぐの花」の３曲メドレーでした。朗々と歌い、しみじみ歌い、８分の６拍子のアップテンポながら切なく歌いと、朋恵さんの魅力が余すところなく伝わりました。

ＭＣで最も力が入ったのは、蚊取り線香の話でした。
野外ライブで蚊取り線香に囲まれて演奏している時に、煙を吸い過ぎ、意識が朦朧とし、吐き気をもよおし、手の顫動が起こり、帰りの車の運転もできなくなったというものでした。
蚊取り線香に含まれる殺虫成分は、「ピレスロイド」と言いますが、これは昆虫に対しては強力な神経毒となる一方で、哺乳類に対しては毒性の低い成分とされています。ところが、大量に摂取したり、アレルギーがある場合には、死亡事故も報告されています。（例えば、「ピレスロイド総論」サイト）
朋恵さんのケースも、１ｍ四方に５本の蚊取り線香を焚かれ、大量の薬効成分を吸い込んだために、気分が悪くなったと思われます。小生の愛犬も、ちょうど一年前にピレスロイド系の蚤取り剤を誤って食べてしまい、胃や腸に潰瘍ができて、全く食事が取れなくなり悶絶死しました。可哀想な最期でした。
朋恵さんは、苦しくて薬物で殺される蚊の気持ちが分かったと切々と語っていましたが、そういう話を聞かされ、サブリミナルなリズムをバックに、切ない声で切ない歌を聴かされていると、けなげな目をした愛犬のことがフラッシュバックして、急に寂しさを覚えた小生なのでした。
朋恵さんの演奏と歌は、人の思考を今あるところから、どこか切ないところに飛ばしてしまう呪術的な魅力があるという気がしました。

朋恵さんがこのようなツボにはまった姿で歌うオリジナル曲「島音（しまのね）」を本人の了解をいただきYouTubeにアップしましたので、検索してみて下さい。