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2010年06月30日

「でいごチャリティ音楽祭」に寄せて

会社のリフレッシュ休暇を利用して、フィリピンに行こうかサハリンに行こうか直前まで迷っていたのだが、忙しくて準備時間もなく、結局は勝手知ったる八重山に出かけてしまった。
石垣の離島ターミナル前の定宿を取り、昼は離島を回り、夜は民謡酒場を回るという贅沢な1週間を過ごすことができた。ところが、帰りの機内でこれを書いているのだが、明日からの仕事のことを思うと正直ノイローゼになりそうである。リフレッシュできたのは、八重山に滞在している間だけであった。


さて、離島ターミナルのあちこちで、7月4日に竹富島で開催されるという「でいごチャリティ音楽祭」のポスターを見かけた。(写真1)
以前より沖縄のデイゴがヒメコバチの寄生により壊滅状態にあるという話を耳にしていた。そう言われて、今回の旅において街や野のデイゴを観察すると、立ち枯れたものや虫こぶができて樹勢が著しく弱ったものが数多く見られた。(写真2~4)


話は少しだけそれる。
1ヶ月前ほど前に、出張ついでに立ち寄った香川県高松市の栗林公園で、同じような話を聞いた。400年前に薩摩藩主の島津家(琉球の敵)から当地の松平家に送られたという琉球産のソテツが、突然クロマダラソテツシジミの幼虫の被害に会っているという。
クロマダラソテツシジミは、元々フィリピンなど東南アジアに生息しており、台風などで八重山あたりまで飛来しただけでも、珍蝶扱いされてきた蝶である。

ところが、地球温暖化の影響か、数年前から沖縄で常時観察されるようになり、ここ2~3年は本土でも越年繁殖しているらしい。旺盛な繁殖力と相まって、各地でソテツの若葉が食い荒らされるという。
沖縄では野山にも普通に見られるソテツであるが(むしろ「ソテツ地獄」の負のイメージあり)、本土では神社や公園やお役所の前庭などに、あたかもそれらの威厳を保つのが役目にように植えられており、立ち枯れては大変とばかり大騒ぎになっている。

今回デイゴと共に、八重山のソテツを観察してみた。ソテツの上でクロマダラソテツシジミが飛び交ったり、葉に止まったりしており(写真5)、葉の半分くらいが食い荒らされている個体や立ち枯れている個体もあった。(写真6、7)
面白いのは、鳩間島で大ヤドカリ(ヤシガニの幼生?)の殻にクロマダラソテツシジミが止まっているところを2度見たことだ。これについては、専門的なサイトを見ても報告例はなく、理由は分からないが、単なる偶然とは思えず、また別の機会に検証してみたい。


植物と昆虫は「共進化」して来たと言われている。
地球が誕生して40億年。昆虫が今のような形になったのが3億年前。一方、ミドリムシも広義の植物であり、植物の定義は難しいが、原始的な植物のひとつであるソテツを例にとれば2億年前から今の形でいる。人類=ホモ・サピエンスが現れたのが、たかだか40万年前、石垣原人はたった2万年前の話である。

共進化とはいかなるものか。
植物は、昆虫の幼虫に葉の一部を食べさせ、成虫に花の蜜を供する代わりに、昆虫に花粉を運ばせて受粉を担わせ、自らのDNAの分布を拡大するのである。植物と昆虫はお互い助け合いながら、何億年の時を経て進化して来たのである。

クロマダラソテツシジミとて例外ではない。裸子植物であるソテツは一般的には風媒花と思われているが、実は原初的な虫媒花とされている。一説ではフェロモンによってゾウムシを操り、受粉を行うととも言われているが、小生の推測は以下の通りである。
クロマダラソテツシジミの幼虫は体側にある蜜線から蜜を出す。蜜は蟻を呼び、蟻の集団は天敵から幼虫を守る働きをするが、ソテツの上を縦横無尽に歩き回る蟻は、花粉を雄花から雌花に運び、ソテツの受粉を担うことになる。
ソテツにとって、あるいは広く植物にとって、葉を昆虫に食べられるのは、元々想定されたことであり、翻って自分に利益をもたらすものなのだ。

クロマダラソテツシジミが今回のように大量発生し、一時的にソテツを食い尽くすようなことがあるかも知れない。しかし、ここにも数億年かけて確立された自然のバランス調整が機能がする。すなわち、大量発生した昆虫にとって、餌となる植物をほとんど食べ尽くしてしまえば、増えつづけることはできないし、今度は逆に、その昆虫が餌となる天敵の数も増加する。数年間の短いスパンではなく、数十年間、数百年間の長い目(2億年にとっては瞬時も同然)で見れば、クロマダラソテツシジミの数はほぼ一定に保たれるのである。今回もクロマダラシジミの天敵である寄生蜂が、後を追って南国から飛来すれば、クロマダラシジミの数が激減するのは明らかである。
自然界においては、あらゆる生物が関係し合いながら、今の地球上の生態系を形作っている。


小生が警鐘を鳴らしたいのは、このような自然界の数億年に及ぶ秩序、平衡機能を理解しないまま、ヒメコバチを殺すために、農薬を使うということである。特に近年有機リン系農薬の代わりに開発されたイミダクロプリドやネオニコチノイドと言った高性能の農薬は(人間にとっての)害虫のみならず、(人間にとっての)益虫も一網打尽に殺してしまう可能性を有する。

その効き目は、2Km先のミツバチの呼吸も止めてしまうという。近年世界中で、ミツバチの大量突然死が報告されているが、その原因として最も怪しいのが、先にあげたイミダクロプリドやネオニコチノイド等の農薬説である。植物の80%は昆虫を媒介とした受粉を行い、その80%はハチが担っている。野菜や果物もミツバチの活躍なしでは収量が上がらないのである。

デイゴの救済にも、「イミダクロプリド」の注射が使われるという。散布よりはマシとは言え、ヒメコバチの幼虫を殺すだけではなく、デイゴの受粉を担うハチや蝶に影響を与えるのは必至である。昆虫との関わりが絶たれると言ってもいいデイゴは、自然界との関わりをも絶たることを意味し、野山に立っていても人工の造花と化すのである。


確かに現在デイゴは大変な危機にある。
皆さんが卒業した小学校や中学校のデイゴは枯れるかも知れない。
しかし、これとて人間の身勝手な経済活動のために、地球が温暖化し、天敵を残したままヒメコバチが北上したのが原因である。シジミ蝶やコバチを敵視する前に、まず人間が行ってきた自然破壊を、生態系の破壊を、謙虚に反省すべきである。

もう一度繰り返せば、数十年の長い目で見れば、自然の平衡機能が働き、ソテツもデイゴも元に戻る。
ところが、強力な農薬を散布するなどして、人間が愚かで性急な手を打てば打つほど、自然界の秩序や平衡はさらに大きく破壊され、デイゴだけでなく次から次へと死滅に追いやられる動植物が増えるに違いない。
沖縄のサンゴは既に9割が死滅してしまったが、ひと頃騒がれたオニヒトデのせいだと言う人は今では少なくなった。過剰な土地の開発や過剰な生活排水が原因だと皆分かっている。
今回も言うなれば、それと同じことなのだ。


「でいごチャリティ音楽祭」に参加する人達は、心して欲しい。

ヒメコバチ(だけ)が悪者ではない。農薬を使うこと(だけ)が解決策ではない。
自然界のルールを無視して、傍若無人に振舞う人間の活動こそが、自然の平衡を壊していると。
サンゴやデイゴの危機を招いている原因だと。

「でいごチャリティ音楽祭」に寄せて

「でいごチャリティ音楽祭」に寄せて

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