与那覇歩ライブレポ「朝花」

猫太郎

2011年09月28日 01:31










小生のブログは、縦軸に(沖縄の)音楽、横軸に(沖縄の)歴史・文化という構成で展開されることが多いです。格別意識しているわけではないですが、沖縄のてぃーだブログであるということと、小生の得意分野が、音楽と歴史・文化なので、図らずもそういうパターンになっています。

得意だからといって、いつもスラスラ書けているわけではありません。
例えばこんな感じです。ライブに行く。100%酔ってはいますが、メモは必ず取っています。左脳で音楽を聴きながら、右脳で、選曲・演奏の出来栄え・MC・パフォーマンス・体調(お肌の張り・体重の増減=競走馬か?!)等を注意深く観察します。
すると、30分に一回は「お。これは興味深い!」という瞬間が必ず訪れます。それらを組み合わせたり、背景を調査し膨らませたりして、記事にするわけです。
そんなこんなで、毎回結構苦労してますが、楽しく書かせてもらってます。

9月16日金曜日、那覇・金城での与那覇歩さんのライブは、簡単に書くべきテーマが見つかりました。
冒頭の自己紹介で、恵美さんが「沖縄のカスタネットこと三板(さんば)を担当させてもらってます、早田恵美です!」と言うところを、「沖縄のサンバこと…」と間違えて、言葉に詰まってしまったのです。単なるミスですが、小生には一つのインスピレーションが湧きました。

実は、その1週間前、ご接待で大阪の北新地の高級クラブに行きました、小生の横についたのが、日系ブラジル人のアリサちゃん。めちゃかわの20才のレースクイーンでした。(写真を撮りましたが割愛)
小生が「今一番好きなミュージシャンは、ブラジルのロベルタ・サー。モダンサンバの女王ね。」と言って、iPhoneに落としてあったDVDを見せると、自国のご機嫌なミュージシャンを見せられた彼女はいきなりヒートアップして、それから12時まで、サンバで飲めや歌えや踊れやの大騒ぎになりました。
言うまでもないですが、沖縄は過去100年間ブラジル行きを始めとする移民の歴史を持っています。アリサちゃんの4代前のご先祖も沖縄からの移民でした。
小生は3年ほど前に横浜の移民センターを見学したことがことがあり、ちょうどこの8月にも、沖縄公文書館で行われている「沖縄の移民展」を見てきたところでした。(公文書館は何日でも過ごせそうな場所ですね。)

三板→サンバ→ブラジル→沖縄からの移民という図式が、頭に浮かんだところで、決定打が来ました。歩さんが「黄金の花」を歌うというのです。小生は歩さんがこの曲を歌うのを最後に見たのが、2006年9月26日でした。実に5年ぶりの生唄。これは大事件です。
TBSニュース23のエンディングテーマにもなったネーネーズ最大のヒット曲は、小生にとっては、凡庸な楽曲と岡本氏の上から目線の歌詞が鼻につく最も嫌いな曲です。
しかし、この際好き嫌いは関係なくて、その歌詞の内容が、海外から日本に来て、飲み屋や風俗店で働く若い女性「じゃぱゆきさん」を扱ったものなのです。アリサちゃんもブラジルから日本に来て働くじゃぱゆきさん。
過去には日本から南米への移民。今は南米から日本への移民。


久しぶりの歩版「黄金の花」を聞きながら、苦労を重ねた多く人たちの100年に渡る人間ドラマが頭に浮かびました。歌詞を忘れたと言いながら歌もバッチリ。これは大作が書ける!
ライブ終了後、歩さんに「久しぶりの『黄金の花』書きまっせ。」と打診すると、歩さんカブリを振って「あれはリクエストがあって歌っただけだから。」と本意でなかったとの様子でやんわりお断り。
んー。やむなしです。
ブラジルネタは、ブラジル滞在歴もある具志恵(MERRY)さんの次回ライブレポ用にとっておくことにして、別のトピックスを書くことにしましょう。メモにはちゃんと花マル付きで残っています。


「黄金の花」以外に、この日初披露だった曲があります。石川さゆりの2007年のシングル曲「朝花」のカバーです。
石川さゆりと言うと、小生のようなオジサンには、山口百恵や桜田淳子と同時期のアイドルのイメージも強いです。しかし、演歌に転じた後の彼女の代表曲「天城越え」あたりは、日本の演歌名唱10選に挙げたいくらいのもの凄い歌唱だと思います。まあ、ガチンコ勝負をしたら、歩さんも負けていないと思いますが。

「朝花」はシンガーソングライター樋口了一氏が、奄美を旅行した際、奄美民謡「朝花節」を聴き感動して作った曲とのこと。
石川さゆりと言えば思い浮かべる「津軽海峡冬景色」や「天城越え」といったテンション爆裂の曲調とは打って変わって、悟りにも似た穏やかな人生を歌ったソフト演歌です。
原曲はフルオーケストラの曲を、恵美さんの初披露のジャンベを入れて、3人で演奏します。さて、どうなりますか。小生の期待は膨らみます。

音量ミニマムでギターのアルペジオ。三線のタメにタメたイントロから、澄んだ声で歩さんが歌い始めます。ジャンベはお休み。三線はルートを押さえるのみ。静かな曲だけど、芯を残したしっかりした歌唱です。
1番はサビメロも抑えたまま。「あの朝花の調べに寄り添い、ハイハイ、ハーレイ、ヨイサヨイ。」奄美のお囃子です。

そのままの調子で2番に突入。ジャンベが、1拍目、3泊目にポンタンとアクセントを入れ始めました。あー、優しくも力強い歌声。
サビでコーラス1枚。「あの朝花の調べに打たれて、ハイハイ、ハーレイ、ヨイサヨイ。」おお。わずかな変化だけど、場面展開に効果的。
「泣いて、泣いていました。」の後、一瞬ギターがタメて、フォルテモの間奏へ。ギターストローク。ジャンベもタカタカと音数が増えてシャッフル。三線ソロ。おお、静から動へのコントラストが鮮やか。

スッと下がって3番へ。ギターのアルペジオ。三線も初めてお休み。
そして、満を持してサビで大爆発。再びギターのストローク。コーラス2枚。恵美さんオクターブ上の「Ah~」。
歩さん、奄美風ファルセットで、トドメの「ハイハイ、ハーレイ、ヨイサヨイ。」
来たー!!素晴らしい!!
石川さゆりの楽曲や歌より素晴らしいんでないかい。
拍手。初ものでガツンと感動です。もう一度拍手。


実はゴールデンウイークに奄美に行き、奄美の唄者・西和美さんのお店で、「朝花節」を生で聴く機会がありました。
奄美民謡は、沖縄民謡と音階も発声法も三線(三味線)の弾き方も全く違います。
その日のメインの唄者は、喜界島出身の竹島信一さんでした。竹島さんは、張りのある素晴らしい歌声で、「朝花節」を歌い始めました。
奄美では、「唄遊び」(沖縄でいう毛遊び。ただし若者に限らない。)の最初に必ず「朝花節」が歌われます。
「ハーレイ」の掛け声と共に、「ようこそお出で下さいました。今日の出会いを大切に。」という意味の歌詞から始まり、そこに居合わせる人達が、ご挨拶や今日の出来事や、時には愛の告白などを、次々と即興で歌詞を作り歌って行きます。古墳時代からヤマトにあった「歌垣」を彷彿とさせる光景です。歌垣の(ような)慣習は、大陸や南の島々にもあったと言われているので、ヤマトが先かどうかはわかりません。

新版「朝花」の中にこのような歌詞がありました。
「子は育ち やがて子の親となり
 この唄を 集い 唄うのだろう
 楽しい 楽しい時に 唄え
 苦しい 苦しい時に 唄え」

親子2代どころではありません。集って即興で歌う風習は、何代にもわたり1500年以上の月日を重ねて来たのです。
この歌詞にあるように、奄美の人々は、楽しい時、苦しい時に集い、「朝花節」を歌い継いできたのでしょう。
しかし、小生が聴く限り、奄美民謡は圧倒的に苦しみ、悲しみの唄が多いように思います。薩摩(ヤマト)と首里王府の二重支配のため、人々の暮らしは苦しく、困窮をきわめていたことが根底にあると思われます。

奄美民謡は素人の小生ですが、小生が知っている悲しい曲の代表は「かんつめ節」です。薩摩の黒糖圧政下、ヤンチュ(奄美の債務奴隷)であった美しい娘「かんつめ」は、隣村の青年「岩加那」と唄遊びで意気投合し恋に落ち、毎晩のように山中で逢引きしていました。一方、美しいかんつめに好意を持っていた主人(雇い主)の妻は、これを嫉妬し、かんつめの局部を焼けた火箸で傷つけました。かんつめは絶望し、岩加那と逢引していた場所(現在お墓がある場所)で首吊り自殺をしました。

小生、無思慮なことに「かんつめ節」のリクエストをしてしまいました。すると、一瞬にして店の空気が凍りました。
常連のお兄さんが、「かんつめ節は夜は歌わないんだ。歌うと、天井から首を吊ってぶら下がった姿のかんつめの幽霊が出ると言われている。」と教えてくれました。
小生はリクエストしたことを皆さんにお詫びして、来る前にヤンチュの本を何冊か読み、昼間に車で3時間の距離にあるかんつめのお墓に行って、手を合わせてきたことを伝えると、竹島さんが「お墓参りまでしてきたなら、歌いましょうか。」と言って、ママの西さんの許可を取って、おもむろに歌ってくれました。
ハーレイの掛け声と共に、なんという物悲しい調べ。
この1曲で、かんつめの悲しみと共に、奄美の苦しみの歴史の一断面を見た気がしました。


奄美から与那国までを琉球弧と呼ぶなら、長い琉球弧の西の端出身の歩さんが、何かのご縁があって、北の端の奄美の唄を歌いました。
八重山も、薩摩と首里王府の二重支配に苦しんで来ました。奄美同様、悲しい唄がたくさんあります。圧倒的に苦しいからこそ、苦しみを唄で紛らわせ、苦しい中にも楽しみを見つけ、生きているエネルギーを爆発させました。
新版「朝花」にあるように、「楽しい時に唄え。苦しい時に唄え。」という歌詞が、場所や世代を超えた真理として、強く胸を打ちます。

小生は歩さんが歌う八重山民謡が一番好きですが、「朝花」を聴いて、民謡のカテゴリーに閉じ込めておくのはもったいないという気がしてきました。ベタなポップスはともかく、歌謡曲や演歌のカテゴリーの方が、歩さんの唄がより多くの人の心に響くのではと、ファンとして方向転換した一夜なのでした。
いずれにしても、この曲のように、人生哲学や社会性を含んだ大きなテーマの唄を歌うべきで、それが伝えられる表現力を持った歌手(もはや唄者と言わない)だと思います。



「朝花節」を歌う竹島信一さん


かんつめのお墓と歌碑



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